明日からの、ストリートミュージッシャン生活を夢見て、3匹(グレ、カノジョ、マスターの3匹ののらねこたち)は、新しいハンモックで眠りにつきました。
今日は、大きなハンモックで、3匹寄り添って眠りました。夜があけて、最後のお星様が見えなくなった頃、
「おーい!降りて来い。誰に断ってここに寝泊りしているんだ。ぐずぐずしていると、ぶっころすぞ!!」
という怒鳴り声が聞こえました。3匹が下をのぞくと、ガラの悪い、ボスらしきドラねこを先頭に、5匹の子分らしき猫たちが、ギャーギャー叫んでいます。
3匹はあわてて、するすると木から下りていきました。
「ここは、オレサマのなわばりだ。オレに何のあいさつもなく、ハンモックなどつるしやがって、土下座してあやまれ!!」
ボスねこがほえました。マスターは、
「ここはみんなの公園だろう。何の権利があって、君たちの所有だというんだね。従うわけにはいかないなあ。」
と、切りかえしました。
この、マスターの言葉にボス猫たちは、完全に切れてしまって、暴力を振るいだしました。
「てめーら、生かしちゃおかねーぞ!覚悟しろ!」
それからは、3匹と、ボスたちの格闘が始まりました。始めは、互角に戦っていましたが、3匹対6匹では、勝ち目はありません。
身の軽いカノジョは、必死になって木の高いところまで逃げましたが、しっぽに咬みつかれ、半分ちぎれそうなケガを負いました。
マスターは、ボスとがっぷりよつで戦いましたが、顔面を目から鼻にかけて、するどいつめでひっかかれ、目から真っ赤な血があふれでました。
グレは、3匹のドラ猫どもを相手に、果敢に戦いましたが、のどを、噛み切られ、足も、噛みつかれ、すさまじい状況になりました。
グレたちが、のびてしまったのを、確認すると、なんと、ボスたちは、ハンモックから、ギター、ハーモニカ、そして、新しいステージ衣装まで、とっていってしまったのです。
木から下りてきたカノジョは、マスターとグレが、血を流しながら倒れている姿を見て、途方にくれました。
メイが死んだ時の悲しみを思い出して、グレたちには、どうしても生きていてほしいと思いました。
池から水を汲んできて、傷口を洗ったり、血止めの草を探してきて巻いたりしましたが、どうすれば助かるのかわかりません。
困り果てているところに、4匹のリスのコーラスグループが通りかかりました。雄が2匹と、雌が2匹のコーラスグループで、やはり、ストリートミュージッシャンをして、暮らしているそうです。
カノジョが、ボスねこたちに、やられた話をすると、
「僕たちも君たちと同じような目にあわされたのです。あいつらは、この公園に新入りが来ると、いつも、暴力を振るって追い出すんです。ここにいるためには、あいつらの手下になるしか、ないのです。僕たちは、この先の森のコロボックル(小人の妖精)に助けてもらいました。コロボックルの村に行ってみましょう。案内しますから。」
という話でした。
カノジョは、グレとマスターに、すぐに助けに来るから、この場から動かないようにと、言い聞かせて、リスたちといっしょにコロボックルの村へ行くことにしました。
ブランデーパークは、そのまま森につづいていて、その森をどんどん奥の方へ入って行くと、コロボックルの村に着きました。
コロボックルは人間の姿をしていましたが、大きさは猫と同じくらいで、みんなとてもやさしくしてくれました。
付き添いのリスから、事情を聞くと、さっそく、カノジョのしっぽに薬を塗ってくれました。これは、魔法の薬で、塗ったとたんに、傷はすっかり治りました。
「ありがとう。こんなにすぐよくなるなんて、信じられないくらいです。私の仲間のマスターとグレはひどいケガをしています。どうか、助けてください。」
カノジョがお願いすると、コロボックルは、
「この薬をもって行きなさい。きっと、治ると思いますよ。でも、この薬の事は、誰にも話さないでください。私たちがここで暮らしている事が知れると、悪い猫たちが押し寄せてきて、この村は滅ぼされてしまいます。私たちのことは、誰にも教えないでください。」
といいました。カノジョは
「お約束します。このご恩は一生忘れません。」
といって、薬をもらい、リスたちといっしょに帰ってきました。マスターとグレは、死んだように眠っていましたが、まだ息はしていました。
本当に、危機一髪のところでした。カノジョはさっそく、2匹の傷に、その薬を塗りました。
すると、たちどころに、傷は治って、2匹は元通り、元気な姿になりました。
「僕たち、どうして治ったのかな?」
「夢のようだぜ!」
と、2匹は不思議がりましたが、カノジョはコロボックルのことは、話しませんでした。
「きっと、神様が助けてくださったのよ。さあ、又、楽器を手に入れることから、始めなくては。」
何もなくなってしまった3匹でしたが、今は、命が助かっただけで、十分でした。まずは、もう少し安全な寝床を探さなくてはなりません。