カノジョのドリームスクールに入って、勉強したいという気持ちは、日に日に強くなって、ある日とうとう、カノジョは校長先生にお願いしてみることにしました。ナオミとハナを迎えに行った折に、校長先生に
「お願いがあります。私もこの学校に入学させてください。」と話してみたのです。
「この学校は大人の方でも入れますよ。明日、朝から少し時間がありますから、明日来てください。お待ちしていますよ。」という校長先生のお答えでした。
あくる日、カノジョは少女のように胸をドキドキさせながら、ナオミとハナと一緒に、校門をくぐりました。ナオミとハナはそれぞれの教室に向かいました。
カノジョが校長室のドアをノックすると、
「どうぞお入りください。」という校長先生の声がしました。
「失礼します。」と言って、カノジョはドアを開けました。
校長室には10人ほどの大人のウサギやネコやタヌキなどが机に向かって勉強していました。
カノジョは思いがけない光景に、
「もしかして、授業中ですか?私、校長先生お一人かと思っていました。お邪魔ではないでしょうか?」と言いました。
すると校長先生がほほえみながら言いました。
「カノジョ、いらっしゃい。この方たちは、カノジョと同じように、この学校で勉強するために通っている生徒さんです。皆さんにご紹介しましょう。」
校長先生「皆さん、ナオミとハナのお母さんのカノジョです。今日から皆さんの仲間になります。色々教えてあげてください。」
大人の生徒たちから拍手が起こりました。
1匹のウサギが近寄ってきて、手を差し出しながら、言いました。
「カノジョ、よろしくね。仲間が増えてうれしいわ。」
カノジョはちょっと、どぎまぎしながら、そのウサギと握手をしました。
カノジョ「私、ちょっと驚いてしまって。。。皆さん、どうぞよろしくお願いします。」
「校長先生、入学を認めてくださって、ありがとうございます。私、みなしごだったので、学校に通ったことがなかったのです。ナオミとハナの楽しそうな様子を見て、私も勉強したいと思うようになりました。」
校長先生「ここに居られる生徒さんも皆同じですよ。勉強するのに、年齢は関係ありません。学びたいと思ったときが、第一歩です。」
「ところでカノジョは何か特技がありますか?ドリームスクールでは、大人の生徒さんには、勉強を学んでいただく代わりに、自分の特技を子供たちに教えてもらっているのです。」
カノジョ「私、他には何もないのですが、歌だけは幼いころから歌っています。
メルキドの街では、酒場で歌っていました。それからノラーズという猫たちのグループではボーカル担当で、各地を旅していたこともあります。
歌でよかったら、少しはお役に立てるかもしれません。」
校長先生「そうですか、もしよろしかったら、一曲歌っていただけませんか。」
カノジョはノラーズのメンバーと別れてから、随分歌っていませんでしたが、
「それでは、ノラーズのころ、よく歌っていたくろねこブルースを歌います。」と言って、大人の生徒たちに会釈をしました。
カノジョはじっと目を閉じて、思い出に浸るように、くろねこブルースの1フレーズを口ずさんでみました。
すると、グレやマスターや仲間たちの顔が次々と浮かんできて、胸がいっぱいになりました。
カノジョの歌声が部屋に響き渡ると、窓の外でも、ギターを弾きながら、一緒に歌っている声が聞こえてきました。
カノジョは一瞬耳を疑いましたが、
「あの声は、グレだわ!!」というと、窓に駆け寄りました。
校長先生も生徒たちもみんな、窓の下を覗き込みました。すると、1匹のグレーの猫が、ギターを爪弾きながら、歌っているのです。
「やあ、グレさん、よくいらっしゃいました。お待ちしていましたよ。」
校長先生が声をかけました。
やがて校長室に入ってきたグレは、日焼けして、精悍な顔立ちが、大人っぽくなっていました。
カノジョは思いがけない出会いに、しばらく呆然としていました。
グレはカノジョに近づいて、手を握りました。
その様子に笑いながら、「グレさんとカノジョはお知り合いだったのですか!!」校長先生が言いました。
「それは調度よかった。実は一昨日、私が久しぶりに森の中を散歩していると、ギターを弾きながら歌っているグレに出あったのです。とてもやさしい心に染み渡る歌声で、私はなんともおだやかな心持になれました。グレは吟遊詩人で、ギターを持って、世界中を旅しているのだそうです。この街に立ち寄ってくれたのも、何かの縁でしょう。ドリームスクールに来て、生徒たちにもグレの歌を聞かせてください。とお願いしたのです。今日が調度約束の日でした。約束どおり、来てくださって、うれしいですよ。」
校長先生はグレの手を取りました。
それからは、校長室では、カノジョとグレのコンサートになり、ノラーズのころの歌が次々と披露されました。
大人の生徒たちは、思いがけず、素晴らしいコンサートを聞くことが出来、感激しています。
そのあと、今度は体育館で、子供の生徒達の前で、コンサートが開かれました。
子供たちもいっしょになって、歌ったり、踊ったり、時の経つのも忘れて、みんな楽しみました。
その夜、グレはカノジョの家に泊めてもらうことになり、吟遊詩人の旅の話をしたり、カノジョからナオミとハナのいきさつを聞いたりして、夜が更けるまで語り合ったのです。
つづく