いよいよエミーの村にも春の到来です。池の水はすっかりぬるみ、おたまじゃくしの姿も目につくようになりました。
遠くの山の頂は、まだ白い帽子を被っていましたが、里はもう春の花盛りです。紅梅、白梅、サンシュユに蝋梅、桃の花も咲きはじめました。野原ではタンポポにつくし、スミレやレンゲも咲きはじめました。
雪深いエミーの地方では、春の訪れが遅いのですが、色んな木々が一斉に花を咲かせるので、白銀の世界から赤、黄の鮮やかな色に変貌する自然の美しさは、とても言葉では表せません。
今日はみんなで近くの山に、山菜採りに来ているのです。わらび、ぜんまい、しいたけ、つくし、ツワブキ、竹の子、菜の花、セリ、ナズナ等々、5匹は背負った籠に次々と入れていきました。
グレとカノジョは2人で並んで歩いていましたが、グレが突然話し始めました。
グレ「カノジョ、だいぶ前からずっと考えていたんだけど、ボクは旅に出ることにしたよ。もう一度吟遊詩人として、生きていこうと思うんだ。カノジョを愛する気持ちは今も変わらない。しかしカノジョのメイに対する気持ちも変わらないことがわかったんだ。カノジョやノラーズの仲間と過ごせた日々は、大切な思い出として、胸にしまっておくよ。
カノジョ「グレ、時々物思いに耽っている様子を見て、もしやと思っていましたが、ついにお別れのときが来たのですね。恋って不思議なものですね。私もメイへの思いを忘れることができないから、グレの気持ちがよくわかるのです。どうすることもできないさだめでしょうか。どうぞ吟遊詩人の道をきわめてください。お祈りしています。」
2匹はメルキドの街で夕暮れ時に散歩したときのことを思い出していました。
グレ「今日は泣かないよ。もうあのときのボクじゃない。」
カノジョもクスッと笑って、仲間たちのところに戻って行きました。
あくる朝、東の空に朝日が昇りはじめると、グレはエミーの家の扉を開けました。
エミー「グレ、元気でね。旅に疲れたら、いつでも戻ってきてね。」
マスター「おいグレ、立派な吟遊詩人になるんだぞ、がんばれよ。」
チャピー「グレ、今日のグレはなんてステキなんでしょう!!何で私は今まで気がつかなかったのかしら。時々戻ってきて、旅のお話を聞かせてね。」
カノジョは無言でグレの手を握りました。
グレ「それじゃあ、みんな元気で。君たちといっしょに暮らせて楽しかったよ。またいつか会えると思うよ。」
リュックを背負い、ギターをかかえたグレは、こう言うと、クルリと背を向けて、歩き出しました。
みんなはグレの姿が見えなくなるまで、手を振り続けました。
つづく